なぜ、愛着関係はセックスレスを解消させるのか?ケアラー夫が妻からモテる2つの理由とは?

性欲とは正反対にあるように思われる”愛着関係”。なぜ、出産後の夫婦の性生活の回復には愛着関係が重要になるのか?”愛着障害”と”オキシトシン”をキーワードに説明します。
アツ@夫婦関係学ラジオ 2024.05.10
誰でも

産後の夫婦に降りかかる大きな課題、それがセックスレス。

この問題に関しては「#545 妻をケアする夫はなぜセクシーなのか?あなたの知らない『妻の心と身体の開き方』」にて、3人の女性ゲストをお呼びし詳しくお話しした。

「私のことを大切に扱ってくれている実感(ケアされている実感)」が性欲と結びついているのではという仮説に行き着いたが、今回はもう少し深掘りしていきたい。

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なぜ、妻をケアする夫は「性欲」を発動させられるのか?客観的には妻を気づかい優しく接するケアラー夫のイメージからは、セクシーさを感じることができない。男性らしさより女性らしさが強く、エロティックさを感じられないからだ。

そして、男女とも年を重ねるごとに性欲は減少していく。男性はテストステロンが、女性はエストロゲンが減少していくからだ。この二つは性欲に大きく関わっている。

さらに、人の愛は欲望(セックスがしたいという種としての強い衝動)、ロマンス(もっと一緒にいたいと願う恋愛感情)、愛着(お互いに慈しみ合う関係性)へと変わっていくが、ホルモンもドーパミン(性欲を活性化させる)からオキシトシン(幸せを感じる穏やかなホルモン)へと変化していき、性衝動もなだらかに減少していく。

性欲は登山に似ている。山を登る途中でパートナーと出会い、ともに感情をたかぶらせながら山頂へと向かっていく。途中には大きな岩があったり、木が倒れていたりとトラブルも多い。二人で手と手を取り合い、助け合いながら上へを目指していく。頂きが近づくにつれ二人の心が一つになっていくのを感じる。

たどり着いた山頂が性衝動のピークだ。周囲をぐるっと見渡すことができ、自分たちが世界の中心であるという万能感と心からの充足感を感じる。

そして、二人は山を降り始める。下山道はゆるやかな斜面であるため大きな疲れはなく、障害物も少ない。ドーパミンを分泌させるようなハプニングもなく、早く家に帰ってお風呂につかりたいと思うようになる。山頂で感じた万能感と充足感は薄らいでいき、心地よい疲れと充実感が体を満たしているはずだ。そんな下り道で、山頂で抱いた万能感(=性衝動)が蘇るとは思えない。

だが現実は違う。恋愛初期にたどり着く山頂での絶頂感のような強い性衝動こそ存在しないが、穏やかな愛着関係のなかで妻は夫を求めるようになる。

なぜか?

ぼくは2つの理由があると思っている。一つ目は「愛着障害の改善がもたらす、性体験の質的向上」、もう一つは「オキシトシンがもたらす女性への性衝動活性化」だ。

愛着障害の改善がもたらす、性体験の質的向上

サウスダコタ大学が米国中西部の大学生2487人を使い、6年間をかけた調査結果によると、不安型や回避型といった愛着障害を抱える人はセックスの満足度が低いことがわかった。

愛着障害がパートナーへの不信感、拒絶されることへの恐怖、そして執着心を呼び起こし、怒りや嫉妬といったネガティブな感情が活性化されるからだ。

不安型・回避型の人間は性体験の数自体は少ないが、セックスの動機が不純であるケースが多い。二人の間に生まれる葛藤を解消するためであったり、満たされない愛着欲求の追及手段としてセックスを利用しているからだ。

お互いの愛を確かめ合ったり、愛を与え合うようなセックスではなく、ネガティブな感情の解消のために行われるセックスの質は低く、満足度が下がっていくのだ。

また、不安型・回避型を持つ人はつきあいが長くなるにつれて、葛藤を解決できなくなり、カップルの関係性の質が低下する傾向がある。具体的には、パートナーとの関係を維持したり改善しようとする強い意志と努力、つまりコミットメントが下がっていくのだ。

不安を強く抱きやすい人はコミットメントの増加スピードがそうでない人と比べて早く、ピークに達するタイミングも早い。関係性と向き合うには愛着が不安定であるため、コミットメントを放棄しやすいのだ。

コミットメントが下がることで葛藤に向き合わなくなり、感情的に距離が生まれ、お互いを信頼できなくなり、関係性に不満を抱くようになる。以前であれば、関係性修復のためにセックスを利用していたが、それすら(肉体的親密性)も放棄するようになる。

逆に言うと、愛着が安定しているカップルはコミットメントが高く、お互いの関係性をより良いものにしようとする意志が強い。そして実行力と継続力もある。そういったカップルはますます愛着関係を深めることで性体験の質が向上し、もっとセックスをしてもいいと思うようになる。

何十人ものセックスレスの課題を抱える方たちと話をしてきたが、多くのケースでは愛着障害が絡んでいた。

夫に素直な気持ちを話すことが怖い。自分の素直な気持ちを認めることができない。自分の感情を認める許可を自分に出すことができない。他者に心を開くことができず、わかってもらえない孤独感にダイヤモンドのような硬い怒りというコーティングをほどこす。拒絶されることが怖く、こちらから相手を切り捨てようとする。

もしくは、妻から愛されていないのではという恐怖心を受け止められず、妻に伝えることもできない。逆に、妻への執着が強く、愛されたいという願望を強くぶつけすぎているケースもある。

他者に安心感を感じること、安心感を与えること。

一見シンプルに思えるこれらがうまくできない人が夫婦関係をこじらせている。これは別におかしいことではなく、世の中の7割の人間はなにかしら愛着障害を抱えているのだから、当然ともいえる。

ただ、そのグレーゾーンのなかで、ブラックに近い方たちが夫婦の葛藤に向き合うことができず、夫婦の問題が顕在化しやすいセックスレスという現象が引き起こされているのだ。

ここで「ケアラーはセクシー」というトピックに再び戻ってみよう。

妻をケアするという現象は一方通行の愛を示しているのではなく、妻からの愛も流れていることを意味する。お互いの不安や孤独を受け止め合い、助け合うことで二人の間を流れる空気はあたたかなものへと変わっていく。

そのケアの好循環が二人のいずれか、もしくは両方が抱えていた愛着障害を癒していくのだ。

セックスレスに向き合うとき、相手や自分が持つセックスへの嫌悪感や欲求について心の底まで降りていくことになる。なぜ、夫に対して性的嫌悪感を抱くのか?もしかしたら、夫の言動が妻の愛着の傷を広げ続けているのかもしれない。

例えば、誰かに心を開くことを難しく感じる回避型の場合、夫から論理的に詰められ論破されてしまうと、さらに心を閉じるようになる。なぜなら、妻にとって必要なものは論理的思考ではなく、心を開いてもいいと思わせてくれる安心感だからだ。

夫婦の課題をロジカルに解決しようとしてもまったく意味がない。夫婦間に流れるダイナミクス(お互いに与え合う影響や、それによって変化する二人の挙動)を変えるには情緒的アプローチが必要だからだ。論理的アプローチでは愛着の傷は癒せない。余計に傷が広がっていくだけなのだ。

夫が妻の心の奥底に降りていき、妻が抱いている恐れ(他者への信用に対する恐怖心、夫への不信感、執着心など)を知り、受け止め、自分ごとのように感じられ、妻をケアしようと本気で思ったとき、二人の間を流れるダイナミクスは大きく変わるはず。

日常生活でそれを繰り返すことで妻の愛着の傷を癒し、二人の愛着関係が安定し、性体験への満足度も向上させていくのだ。

しかし、愛着障害の克服は難しく、心理士のヘルプが必要な分野だとぼくは感じている。ただ、グレーゾーンのグレーに近い方たちなら二人の関係性の改善のなかで癒していくことは可能だと思う。重度な場合は感情焦点化療法を専門とするカップルセラピストを頼って欲しい。

もし、自分たちで改善していくのであれば、以前紹介した書籍「私をギュッと抱きしめて」や、こちらの過去記事を参考にして欲しい。

書籍「私をギュッと抱きしめて」:https://amzn.to/3QDde5M

オキシトシンがもたらす女性の性衝動活性化

ケアラー夫が妻からセクシーに見えるもう一つの理由、それはオキシトシンがもたらす女性の性衝動の活性化だ。オキシトシンとは別名幸せホルモンと呼ばれ、出産時に子宮口が開くことで爆発的に分泌され、授乳や抱擁を通して女性は分泌し続ける。夫婦間においてもセックス時に分泌され、お互いを大切に扱う気持ちを倍増させてくれる。

このオキシトシンが女性の性的欲求を向上させるエビデンスがいくつか見つかった。一つ目は閉経前後の女性にオキシトシンの点鼻薬を投与したら性機能が改善したというもの。二つ目は同じく閉経前後の女性にオキシトシン点鼻薬を投与したところ、膣の潤滑と強い性的欲求を引き起こしたというもの。

一般的に、女性は30代以降にエストロゲン(女性の性欲向上に関与しているホルモン)の分泌が減少していく。

https://www.otsuka-plus1.com/shop/pages/story_equ_fhormone.aspx

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エストロゲン減少に伴い女性の性欲も減少していく。まれに閉経後に性欲が向上する例があるが、エストロゲンよりテストステロン(女性にも男性ホルモンであるテストステロンが存在する)の減少率が低いため、相対的にテストステロン優位となっているケースと思われる。ただ、一般的には30歳以降、女性の性欲はなだらかに減少し、40歳頃から急激に減少する。

そうであるにも関わらず、オキシトシンを投与することで性機能が改善されたという。これは女性にとってエストロゲンだけでなく、オキシトシンも性欲向上に関わっていることを意味する。それを裏付けるように別のエビデンスも存在する。

性衝動をもっともドライブさせるホルモンはドーパミンだ。恋愛初期に大量に分泌され、人を盲目にさせる。このドーパミンとオキシトシンが関連し合っていることを示唆する動物実験が存在した。それが確かであるならば、激しい性衝動を呼び起こすドーパミンと、穏やかな幸福感を呼び起こすオキシトシンが意外と近い性質を持っているということを意味する。

実際、恋愛中の恋人の血中オキシトシン濃度は高い。子供が生まれた親と同じレベルのオキシトシンが分泌されているのだ。今までオキシトシンは慈愛や思いやりなど、性衝動とはかけ離れた穏やかな感情のみを呼び起こすと考えられていたが、実は性衝動にも一役買っている可能性があるのだ。

それから恋愛や愛着を形成する脳領域にはオキシトシン受容体が大量に存在することがわかっている。ホルモンとはただ分泌されるだけでは効果を発揮せず、”受容体”と呼ばれるものと結合する必要がある。

恋愛や愛着を形成する脳領域にオキシトシン受容体が大量にあるということは、恋愛感情や愛着感情の形成にはオキシトシンが欠かせないことを意味する。愛着関係にオキシトシンが必要であることは理解できるが、激しい性衝動をいまだ持っている恋愛状態においてもオキシトシンを大量に必要とするということは、オキシトシンと性衝動の関連性を思わずにはいられない。

人の愛は欲望、ロマンス、愛着の順に進化すると言われているが、実は大きな境目は存在せず、グラデーションのように混ざり合っているのかもしれない。

また、他の研究でも、オキシトシンが分泌される視床下部-下垂体-副腎経由からのホルモンの乱れが性機能障害を引き起こす可能性があると言われている。そして、いくつかの研究では、性機能障害を持つ男女において、オーガズムの強さ、興奮、性的満足感に対するオキシトシン点鼻薬のプラスの効果が示されている。

上リンクの実験は授乳中の女性に合成オキシトシンを投与し、性的満足度とうつ病への影響を調査したものだ。調査の結果、プラセボ群(偽の薬を使ったグループ)と比較して性的満足度の改善があるにはあったが、それよりもうつ病の緩和には役立ったことが分かっている。

夫が妻を気づかう中で妻がオキシトシンを分泌し、そのホルモン作用によってストレスが緩和され、セックスにも前向きになり、その副作用として性的満足度も上がるのかもしれない。

海外の文献を多数調べたが、性に関する実証実験数はかなり少ない。当たり前だが性的満足度や性体験の回数を研究者に報告したいと思う被験者はまれなのだろう。だからこそ、性の分野の研究は進まず、多くの人が袋小路に陥っているのだ。

だからこそ、経験者からの声を多く集め、誰にとっても参考になるナレッジを体系化することが必要だと僕は考えている。

ポッドキャストでも呼びかけているが、もし、あなたが夫婦仲を改善(特にセックスレス)させることができ、その体験談を番組で話しても構わないと思っていただけるなら、ぜひお便りフォームからご連絡をいただきたい。

あなたの体験が、まっくらな暗闇のなかでさまよっている誰かの松明となるはずだ。

今回はここまでです。今回の夫婦関係学ラジオのリンクはこちら。ぜひあわせてお聴きください。

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では、また来週お会いしましょう!素敵な週末を!

追伸:

今夜、僕は韓国ドラマにハマっている妻とこの番組を観る予定です。毎週何かしら一緒に見ているのですが、面白いドラマがあったら教えてください!最近は実写版シティハンターがめっちゃ面白かったです。

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