不安定型愛着スタイルを持つパートナーとの向き合い方とは?
僕は夫婦喧嘩は人類のデフォルト仕様だと思っている。なぜなら、心が安定している安定型愛着スタイルを持つ人間はわずか3割程度しか存在しないからだ。
7割の人は愛着がちょびっとこじれてる。僕だってそう。だから「夫婦関係に困ってる」ってのは人類のデフォルト仕様。気にしすぎないのも大事
core.ac.uk/download/pdf/1…
この世の人間の約7割は愛着が不安定なのだ。感情的な親密性を避けたり、強い見捨てられ不安を感じたり、依存的になったり、そういった不安定な心理状況では夫婦の葛藤は避けられないだろう。夫婦のいさかいがこの世から消えることはない。
ではどうすればいいのか?葛藤の発生を止めることはできないが、葛藤とうまく付き合うことはできる。方法さえ理解していれば。
前回の記事では回避型愛着スタイルを持つパートナーとの付き合い方について解説した。今回は不安型愛着スタイルを持つパートナーにどう付き合ったらいいのかについて詳しく解説する。あなたがパートナーとコミュニケーションを取る際の参考になれば幸いだ。
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不安型愛着スタイルとは?
不安型愛着スタイルを持つ人間は見捨てられ不安が強く、過剰に依存的になり、感情が安定せず不安や嫉妬を感じやすいと言われている。
他の特徴はこちら。(「不安型愛着スタイル 他人の顔色に支配される人々(岡田尊司著)」より)
・人の顔色に敏感
・心理的支配を受けやすい
・寂しがり屋で一人が苦手
・自己肯定感が低い
・完璧主義でほどほどが苦手
・理想化と幻滅、依存と攻撃のパターンに陥りやすい
・独占欲が強く、三角関係が苦手
・パートナーや子供との関係が不安定になりやすい
・客観視が苦手で悪い点にばかり目が向いてしまう
・気配りができサービス精神が旺盛
なぜ、こういった愛着スタイルを人は持つようになるのだろう?そこにはオキシトシン飢餓があるという。
不安定型愛着スタイルはなぜ生まれる?
回避型と同じく不安型も愛着スリーサイクルモデルにおける応答の不十分さが原因だ。ただ、回避型の場合は幼児からの不安感の表現に対して応答が少なかったことが原因だが、不安型は応答の不安定さが原因である。
ある時までは安定した養育者がそばにおり、常に愛情がある応答をしてくれていたが、何らかの事情でその養育者が幼児の元を去ることで、突然「応答」が消滅してしまった。もしくは、親が自分にとって都合がいい時には子供を「支持」するが、都合が悪い時には「否定」したりと、親からの応答に一貫性がなかったケースなどだ。
その時、幼児の脳内では何が起きているのか?そこにオキシトシンが絡んでいる。親しみや安心感を高め、落ち着きや優しさを増加させるホルモン、オキシトシン。その効果を発揮するにはただ放出するだけではなく、オキシトシを受け止める受容体の存在が必要だ。
オキシトシン受容体は養育者からの愛情ある世話を受けることで脳内に増えていくが、世話がなかったりバランスを変えていると受容体が増えなかったり、機能不全に陥る。
オキシトシンがうまく働くためには、オキシトシンが放出されるだけではなく、オキシトシンの受容体が必要である。オキシトシン受容体は、1歳半頃までにほどよい世話を受けることで、子供の脳内に増えていく。ほどよい世話が与えられなかったり、与えられ方のバランスが悪かったりすると、オキソシン受容体が十分に増えなかったり、あるいは働かなくなる変化が起きたりして、うまく機能しなくなる。
回避型の場合は養育者からの応答(安心感を感じられる世話)が少なかったために、オキシトシン放出量も受容体の数も少なく、低い愛着レベルという点でいびつながらも安定はしている。しかし不安型は、ある時までは過剰なほどの愛情を与えられることによってオキシトシン受容体が増大するが、ある時から養育者からの応答が激減することによって受容体の方がオキシトシン放出量より上回ってしまい、オキシトシン飢餓状態となる。「愛情が足りない!」と常に脳がメッセージを発している状態だ。
不安型愛着スタイルの直接的な発生原因はオキシトシン飢餓状態であるが、「不安型愛着スタイル 他人の顔色に支配される人々」によると、オキシトシ飢餓の発生原因は主に3つあるという。
愛着が傷つけられる事態に巻き込まれた場合
母親の病死、離婚による母親との離別。もしくは母親以外の養育者(父親や祖母など)の喪失体験。そういった安全基地の喪失体験により形成されていた愛着がダメージを負い、愛着対象への執着や強い見捨てられ不安を感じるようになる。
安心感を与える「応答」をしてくれていた養育者がいなくなっても代わりの養育者は現れる。だが、彼らでは元の養育者が築いてくれた愛着形成を引き継ぐことはなかなか難しい。
代わりの養育者によって、うまく世話や愛情が補われた場合には、影響が少なくなるものの、その子が幼い頃に味わった寄る辺なさや心細さは、その子の愛着スタイルやキャラクター形成に何らかの影を落とすことになる。
不安が強くなり消極的になる場合も多いが、愛情不足を補おうとする本能的とも言える防衛反応により、テンションが高めで、誰にでも甘えて行ったり、相手を引き込むような明るい活発さを呈したりする場合もある。また、空想的な存在(イマジナリーフレンド)とおしゃべりしたい、相談したりして、そこに慰めを求めたりする子もいる。
また病死や離別といった悲劇的な出来事ではなくとも、僕らの日常の中にも愛情を奪われる体験は存在している。最も身近なものは下の子の誕生だろう。仕事に家事に育児に忙しい毎日送っていれば、弟や妹が生まれることによって上の子に対する愛情や関心の薄れはどうしても発生する。あなたにも心当たりはないだろうか?
例えば、上の子の出産時にマミートラックにはまり出世が遅れてしまった。産休や育休を取っている間に部下が出世し自分の上司となる。そんな経験をした人もいるかもしれない。仕事への焦りもあるがもう1人子供が欲しい。そんな葛藤の中でもう1人を産むが、幼い子供たちを育てながら出世レースを走ることは難しく、持ち帰り残業の日々の中で上の子に対する応答はどんどんとおざなりになっていく。上の子は登校拒否気味になり、幻覚や幻聴が発生し、ついに統合失調症と診断される。僕の身近でもそういった例があった。あなたにとってもきっと他人事では無いだろう。
事実、少子化が進んでいるにも関わらず、児童精神科を受診する患者は増加している。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/ebpm_meeting/siryou2.pdf
親である僕ら自身も、兄弟の誕生による愛着対象の喪失体験は珍しい話ではないだろう。弟や妹の誕生によって愛情をかけられることが減り、兄として姉として振る舞うよう要請される。まだまだ安全基地が必要であるはずの1~3歳頃にそういった体験があったならば、不安型愛着スタイルを身に着けてしまってもおかしくない。
遺伝的要因による不安型愛着スタイルの形成
不安型愛着スタイルを生むもう一つの理由、それは遺伝的要因だ。愛着スタイルの形成には遺伝よりも環境要因が大きいと言われているが、遺伝的問題であるケースもあるという。
オキシトシン受容体の遺伝子タイプにより、同じように不遇な境遇で育っても、愛着の安定性などに違いが生まれることが示された。その遺伝子タイプは、メンタライジングと呼ばれる他者や自分自身の心の状態を理解する能力とも関係していた。
生まれ持った特性として、心を理解する能力が高い場合には、幼い頃の不安定な愛着を挽回して、安定した愛着スタイルを手に入れるチャンスがあるが、心を理解する能力がもともと弱い場合には、負の影響を引きずりやすいことになる。
不安の制御に関わるセロトニン受容体の遺伝子タイプとの関連も報告されている。不安を感じやすい遺伝子タイプの持ち主では、後年、不安型愛着スタイルを示しやすい傾向が軽度ながら認められている。
この遺伝子由来の不安型がどれくらいの割合かはわからないが、自分のパートナーがもし不安型であるならば覚えておいて損はないと思う。コミュニケーション不全の問題はどうしても相手を責めがちだが、遺伝の問題であるならば本人に原因があるわけではないのでいい意味で諦めもつくし、「では、どうするか?」といった前向きな考えにもなりやすいはずだ。
では、自分のパートナーが不安型愛着スタイルであった場合、どう接すれば良好な夫婦関係を築けるのだろうか?詳しく見ていこう。
何よりも共感が重要
不安型は「自分を受け入れてもらいたい」という思いが最大の関心事なので、何よりも共感が重要になる。そうしないと簡単に心を閉ざしてしまう。相手の気持ちを受け止め、大変さや苦労をねぎらい、大切な人として扱うのだ。
とはいえ、不安型と付き合い続けるのが大変であることは確かだ。特にアンビバレントと呼ばれる反応をする場合は。アンビバレントとは「本当は愛情を求めているにも関わらず拒否をする」という矛盾した反応のことだ。養育者からの応答に一貫性がなかったため、素直に愛情を受け取れない状態に陥っている。
よかれと思ってパートナーに応答(安心感を与える行為)を行なったにも関わらず、その好意を拒否されてしまったら関係性を再構築する気はどこかに行ってしまうだろう。きっと誰だって嫌になるはずだ。だけど、自分のパートナーが不安型であるなら(これはアンビバレント反応かもしれない)と認識できるはず。
その時は、パートナーからの不機嫌、拒否、攻撃といった反応は「もっと私の気持ちに気づいて欲しい!」というサインであると受け取った方がいい。グッド・ウィル・ハンティングという映画で、不安定な愛着スタイルを持つマット・デイモンに対して、心理士であるロビン・ウィリアムズが「君は悪くない」と伝える名シーンがある。
マットはロビンの優しさに抵抗するが、最後は涙を流してその優しさを受け入れる。不安型愛着スタイルのアンビバレントな反応はこれに似ている。僕らがこじれた夫婦関係に向き合う際にも、ロビン・ウィリアムズのようなタフさが必要になってくるだろう。
この映画は、僕が受けたコンパッショネイト・マインド・トレーニングで教材としても使われた。不安定な精神状態の人間に対する接し方がわかる素晴らしい映画だ。もちろん、単純に映画としても素晴らしい。この映画を観たのは高校生の頃だったが、心理学の知識を持って観ると新しい発見がいくつもある。マットは愛情を求めながらも親しい人からの愛を拒絶する。幼少期に養育者から虐待を受ける日々を送っていた彼にとって、愛情に期待しないことは生存戦略だったからだ。
この話を自分たち夫婦にも応用してみよう。あなたのパートナーはどういった子供時代を過ごしていただろうか?愛情あふれる親から胸いっぱいの愛を受けて育った?弟や妹の世話をしなければならず、誰かに甘える機会が少なかった?それとも、親兄弟から愛情を受けずに育てられた?
幼少期の記憶について話し合うことはお互いの理解につながるだけでなく、パートナーや自分の愛着の傷を癒すことにもつながる。愛着障害の原因は幼少期にあるからだ。僕も妻に何度も何度も自己開示をすることで心の傷が癒やされていった。
不安型や回避型のパートナーの話を聴けば、パートナーの本音にも共感しやすくなるだろう。「どうしたの?」「何があった?」「辛かったよね」「話してくれると嬉しいな」など、パートナーに問いかけてみよう。不安定な愛着スタイルを持つパートナーと向き合うことは辛い。だけど、ロビン・ウィリアムズのようにこちらから歩み寄る姿勢を崩さなければ、安心感を感じ心を開いてくれるようになるはず。
では、具体的にどういった行動がパートナーに安心感を与えるのか、詳しく見ていこう。
定期的な愛情表現
まずは定期的な愛情表現だ。これは前回記事のルーティンチェックインと合わせるとやりやすい。ルーティンチェックインとは、家に帰った時などに妻に対して「お疲れ様、今日はどうだった?大丈夫だった?」「何か困ったことない?」「例の人との仕事、大丈夫だった?」「今日はどうだった?忙しかった?」などとさりげなく尋ね、感情表現をしやすくするテクニックだ。
noteでも詳しく書いているから、こちらもぜひ読んで欲しい。
定期的な愛情表現はもっと「愛情」にフォーカスを当てており、自分が相手のことを大切に思っていることを伝えることに集中する。
「心配してたよ」「大切に思っているよ」「いつもそばにいるよ」
なんてキザな表現なんだ!詐欺師みたい!なんて思ってしまうかもしれないが、実際こういった思いをパートナーに抱いていないだろうか?思っているけど言わないだけではないだろうか?パートナーの病気(精神的なものも含めて)や怪我が心配になったり、大切な存在だなと感じたり、いつもそばにいて支えてあげたいと思ったことはないだろうか?もしかしたら、実はそう思っているけれど、ただ素直に表現できないだけではないだろうか?
だったら言ってみよう。素直なその思いを言葉にしてみよう。ただ言葉にすればいい、あなたのパートナーへの心配や大切さや愛情あふれる感情を。
これも日常ルーティンに組み込むとやりやすい。例えば、僕は寝る前に布団の中で妻にいつもこう伝えている。「いつもありがとうね」「今日もありがとうね」「とっても助かったよ」「大好きだよ」と。
日常生活のどこかに愛情表現のルーティンを組み込んでみよう。きっと不安型愛着スタイルを持つパートナーも安心感を抱きやすくなるはずだ。
サポートチェック
次はサポートチェックだ。これは「私はあなたを支える準備ができている」ことを伝えるメッセージだ。相手が困っている時に具体的にどう助けられるのかを伝えることで、安心感を与えるのだ。
例えばパートナーが仕事や家事や育児で忙しそうだったら「ご飯作ろうか?」「お風呂わかそうか?」「子供を風呂に入れようか?」などとサポートを提案する。自分から言い出しにくい場合、相手への不信感が溜まり、それが恨みへと変容していくので積極的にサポートの準備があることを伝えよう。
もし、パートナーが何かを言いたそうにしながらも言わない場合はこう伝えてみてもいい。
「何か心配なことがあるのかな?もしよかったら一緒に考えようか?どうしたらあなたを支えられるか、知りたいんだ」
いつでもあなたを支える準備ができていることを相手に伝えよう。
ポジティブフィードバック
次はポジティブフィードバック。健全なパートナーシップのためには自己開示が欠かせない。だけど、自分の気持ちをオープンにするには「自分への自信」が必要。不安型愛着スタイルを持つ人間は自尊心が低いためそれが難しい。だからこそ、パートナーからのポジティブフィードバックによって「自分が価値ある存在である」と認識させる必要がある。
「いつも支えてくれてありがとう」
「あなたの笑顔のおかげで明るくなれる」
「一緒にいると安心する」
そういった「相手の良さ」や「二人の関係性の素晴らしさ」を定期的に言葉で表現するのだ。これも日常生活のどこかにルーティンとして組み込むとやりやすくなる。僕が寝る前に行なっているのは、人は横になると怒りの感情が湧きにくく素直になれるからだ。もし、1日のどこに組み込むか迷っている場合は、就寝前の横になっている時にぜひ試して欲しい。
ハイリスニング
次はハイリスニング。これは高いリスニングスキルのことだ。夫婦関係につまづいてしまった人には聴く力と好奇心が足りないことが多い。相手の話に体ごと耳を傾け、なぜそう思うのか?なぜそうしたのか?好奇心をたずさえてパートナーの心理に降り立つのだ。
僕は好奇心が強すぎて妻に嫌な思いをさせてしまったこともあるので注意も必要だ。「どうしてそう思うの?」と聞かれても、自分でも理解していない心理もあるわけで答えようがないこともある。(自分はこんなことも言語化できないのか…)と妻を落ち込ませてしまったことがあった。
ハイリスニングは鋭い質問をするのではなく、相手が言葉を紡ぎやすくなるようサポートをすることが肝だ。「ケアラーはセクシー」の回でゲストのふるりさんは「誰もが言葉を持っているわけじゃない(言語化が得意なわけじゃない)」と言っていた。
パートナーが自分と同じように思いを言葉で表現できるわけではないのだ。その場合は相手の言語化を助けることを意識しよう。
相手が話している時はスマホをテーブルに出さずに目を見つめる。「うんうん」「なるほどね」「へぇ」など相槌を打ち話の流れをスムーズにし聞いてもらえている安心感を与えるのだ。
「大変だったね」「それでどうなったの?」「それでどう感じた?」など、理解を示すコメントを伝えよう。受け入れられている安心感を与えることができる。
また、ボデイランゲージや表情といったノンバーバル(非言語)コミュニケーションも重要だ。呉服屋で働いていた頃、先輩から「お客さんと同じ動きをしろ」と何度も言われた。お客さんが話しながら頬に手を当てたら自分も頬に手を当てる。お客さんが顎に触れたら自分も触れる。ミラーリング効果と呼ばれるこのテクニックはナンパ師も使うほど効果がある。人は自分と同じ仕草をする人間に安心感を感じ、知らず知らずのうちに好意を抱くようにできているからだ。
でも僕は逆だと思っている。相手のことをもっと知りたい。この人の話をもっと聞きたい。そう真剣に願いながらコミュニケーションを取っていると、まるで相手と同一化したような感覚となり、気がつけば相手と同じ動作を取るようになっているのだ。
ぼくもポッドキャストインタビュー収録時には、気がつけば相手と同じ仕草をしていることがある。別にナンパをしようと思っているわけではなく、相手に対する強い好奇心と好意が高まり、それが相手に対する強い愛着と共感につながり、まるで心がつながったかのような感覚になっているから自然とそういった行動を取るのだ。
とはいえ、テクニックとしては相手に安心感を与えるものであることは確かなので、試してみるのはいいと思う。ミラーリングしているうちに愛着と共感が高まることもあると思う。行動が心のありようを変容させることはあるから。
アタッチメントセキュリティ強化モデル
以上が不安型愛着スタイルを持つパートナーとの付き合い方だが、最後に重要な理論を一つ紹介しようと思う。
弘前大学人文学部社会科学部 准教授 古村健太郎先生が「臨床心理学138」(心理士向け専門雑誌)にて紹介したアタッチメントセキュリティ強化モデル(Attachment Security Enhancement Model)だ。これは心理学者Ximena B Arriagaが提唱した大人のためのアタッチメント修復理論だ。
簡単に言うと、パートナーの愛着スタイルが回避型や不安型など不安定なものである場合、夫婦二人をつなぐ愛着(アタッチメント)も不安定となり、その不安定が夫婦喧嘩や感情を共有できない沈黙など、ネガティブなものを発生させる。
アタッチメントセキュリティ強化モデルは、愛着の不安定さが生む悪影響をやわらげ、アタッチメントを安定させることにフォーカスした理論だ。理論は主に二つに分かれている。「アタッチメントの不安定さによる悪影響を緩衝させること」と「どうやってアタッチメントを安定させるか」だ。
古村先生は「臨床心理学138」の中でこう説明している。
アタッチメント不安の高い人は、他者から拒絶される可能性に強い脅威や不安を感じ、脅迫的にパートナーとの結びつきを求めてしまう。そのため、パートナーが、コミットメントを明確に伝達したり、情緒的な結びつきを再確認したりする安全な方略(safe strategy)を実行することによって、悪影響を緩衝できる可能性がある。
ちょっと難しく感じるかもしれないが、この記事で僕が紹介した方法がそれに近いと思う。定期的な愛情表現、サポートチェック、ポジティブフィードバック、ハイリスニングといった方法はきっとパートナーに安心感を与えるはずだ。
次に「どうやってアタッチメントを安定させるか」だが、本書ではこう書かれている。
アタッチメント不安の高さは、自己に対する否定的信念を反映したものである。そのため、脅威や苦痛を感じていない状況で自律性や自己効力感を感じられるようなサポートをパートナーから提供されることが、アタッチメント不安を低下させるうえで有効である。例えば、アタッチメント不安の高い人が何らかの重要な目標を達成しようとしているときに、称賛や励ましを与え、目標が達成された場合には自分の努力の結果と帰属できるように促すことが有効と考えられる。
不安型と付き合う際にはその人間の自己効力感をいかに上げるかが鍵になるようだ。この理論は心理士向けではあるが、当事者である夫婦でも十分に応用が可能だ。不安型のパートナーが何かに挑戦している時には心から応援する。「きっと大丈夫だよ」「あなたはいつも頑張っている」「あなたならできるよ」そういった励ましを自分の大切なパートナーからもらえることで、きっと自己効力感は上がっていくだろう。
僕の周りでも関係性を改善できた夫婦は、お互いのチャレンジへの応援をきちんと言葉にして相手に伝えていた。気持ちは言葉にしないと伝わらず、自尊心や自己効力感の低い不安型にとってはなおさらその傾向が高いはずだ。
古村先生はこうも書かれている。アタッチメントの中核とは「くっついて安心感を得る」ことであり、「その経験がパターン化され、内在化されていくこと」であると。
つまり、パートナーから思いやりにあふれた言葉をかけられ、常に支えられることで安心感を感じ、それによって課題や障害を乗り越える体験を重ねていく。その体験からの学び(人に心を開いても大丈夫なんだ。自分は守られているんだ。そうすることで成功しやすくなるんだ)を心に刻んでいくことで、パートナーが自分にとっての安全基地へと変わっていく。そういうことなのだ。
自分たちではどうにもならないならプロに頼ろう
最後におまけです。ここに書いたことを実践してもうまくいかないこともあると思う。パートナーの不安定さがあまりに強くて向き合えないこともあると思う。自分の心を癒す時間もないほど忙しく、思いやりを他者から向けられる経験もなかったため、パートナーに思いやりを向けることが難しいこともあると思う。
そういう時は臨床心理士のカップルカウンセリングを頼って欲しい。カウンセリングは経験あるけどうまくいかなった人も多いと思う。なぜうまくいかなかったのか?それはカウンセラーにも得意不得意があり、カップルセラピーにも相性があるからだ。
認知行動療法、スキーマ療法、力動的精神療法など、心理療法はいくつもあり、自分に合ったものを選ぶ必要がある。心理士が選んでくれるケースもあるが、その心理士があなたにあった心理療法の使い手であるとは限らない。風邪を引いているのに外科医に相談するようなものだ。
夫婦関係は夫婦二人の関係性が生み出すものが原因でもあるので、一人で受ける個人カウンセリングではなく、二人で受けるカップルカウンセリングの方が効果を発揮する。だが日本ではカップルカウンセリングを行える心理士はそう多くない。さらに最新のカップルセラピー療法に詳しい心理士となるともっと少ない。
では、夫婦関係改善にはどういったカップルセラピーが効果的であり、誰のセラピーが効果的なのか?
それがEFT(エモーショナル・フォーカスト・セラピー)を用いるカップルセラピストだ。EFTはスー・ジョンソンという心理士が開発したカップルセラピー向け心理療法であり、来談したカップルの7割は症状が改善するというから驚きだ。「私をギュッと抱きしめて」という本に詳しく、過去のポッドキャストでも何度か取り上げた。この本は本当におすすめだ。読み進めるのが大変な場合は、僕のポッドキャストで全章すべてを解説しているからそちらを聴いてもらえれば大丈夫。
私をギュッと抱きしめてー愛を取り戻す7つの会話:https://amzn.to/4cldArf
では、日本ではEFTカップルセラピーは受けられるのだろうか?大丈夫、安心して欲しい。EFTの習得には海外での研修が必要らしいが、海外の大学で心理学を学んだ日本人によって徐々に日本でも広まりつつある。
僕が知っている範囲のセラピストをここに紹介する。
上遠文恵さん:オフィスY カウンセリング&コーチング
上遠さんは僕のポッドキャストにも何度も出ていただいており、EFTカップルセラピーに関する本も出版されている。
幸福な夫婦のためのマニュアル: 臨床心理士が読み解くパパママ世代の喧嘩の仕組みと夫婦円満のコツ:https://amzn.to/3TIsMHv
Sky カウンセリング & コンサルテーション東京
様々な心理療法を使うようだがカップルセラピーにはEFTを用いるとホームページに書かれている。
個人カウンセリングでは、様々な理論に基づいたアプローチを皆さまのニーズに応じて使用します。個人カウンセリングでは来談者中心療法をベースに、マインドフルネス、家族システム論、対象関係論、実存主義、ナラティブセラピー、アタッチメント基盤の感情焦点化療法: Emotionally Focused Therapy (EFT) for Individuals (EFIT)、加速化体験力療法(AEDP)等です。 カップルや家族カウンセリングでは主に、カナダ出身のDr. Sue Johnsonによる、アタッチメント基盤の感情焦点化療法: Emotionally Focused Therapy (EFT) for Couples/Families (EFCT/EFFT)を使用し、こじれてしまった関係性を”体験を通して”修復してゆきます。
お互いを苦しめる喧嘩のサイクル(パターン)があれば、そのサイクルから抜け出し、心も体も安心できるような、ご自身とパートナーとの関係性を”体験を通して”再構築してゆきます。トラウマのある方は安全確認をしながらトラウマインフォームドケア(TIC)のスタンスと共に慎重に、一歩を大切に歩みます。 健康的なカップルの繋がりとは、その関係性の中にいる個人それぞれがパートナーと一緒にいることで安全だと感じ、その安心感により問題解決がしやすくなり、コミュニケーションが改善し、安全に意見の相違や喧嘩に対応することができるような関係性です。
これから絆を深めてゆかれたい方はもちろん、浮気や、繰り返される衝突、セックスレス等を含む多岐に渡る課題により、関係性を続けてゆけるか・ゆくか迷っていらっしゃる方、形にとらわれないパートナーシップを組まれている方、様々なニーズ・背景の方々を歓迎いたします。
こちらのオフィスの高井美帆さんが立命館大学総合心理学部 准教授 三田村仰さんとEFTについて対談されたXスペースリンクはこちら。心理職向けのやや難しい内容だが、こちらも聴いていただくとEFTに対する理解が深まるはず。
他にもXで「EFT カップルセラピー」で検索するとEFT使いのカップルセラピストが見つかりやすい。僕はEFTカップルセラピーが夫婦カウンセリングにとって最も有効なんじゃないかと思っているので、今後のポッドキャストではEFTカップルセラピストの方達に積極的にインタビューをしていきたいと思っている。
来週のポッドキャストとニュースレターでは、「愛着スタイルに向き合うことが、なぜ夫婦関係を改善させるのか?」をテーマにお送りします。では皆さん、良い週末を!
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