冷えた夫婦関係を温める”アタッチメント”を手に入れろ!
夫婦関係を改善しようとする時、人はテクニックに走りがちだ。傾聴、共感、アイメッセージなど、夫婦関係改善のためのテクニックはいくらでもある。だけど、こんなにもたくさんのテクニックがあるのに、夫婦関係に悩み人がなくならないのはなぜだろう?それは根本的なものを見落としているからだ。
長続きする夫婦関係に必要なものは何なのか?それがアタッチメント(愛着)だ。極端な話、アタッチメントと今後紹介していくコンパッションがあれば、夫婦の問題はだいたい片付くんじゃないかと僕は思っている。アタッチメントとは何か?どうすればそれが手に入るのか?詳しく見ていこう。
今回は愛の三段変化、アタッチメントの気づき方、具体的にどうすればいいのかについて触れていく。夫婦関係をより良いものへと変えていきたい。そう願う方はぜひお読みください。
今回のアツの夫婦関係学ラジオのリンクはこちら。ぜひ、ニュースレターと合わせて聴いて欲しい。
愛の三段変化
イギリスの臨床心理士ミカエラ・トーマスの著書「The Lasting Connection」によると、人の愛は欲望からロマンスへ、そしてアタッチメントへ変化すると言われている。
愛の三段変化
欲望とは種を残したいという原始的な欲求、簡単に言えば「この人とセックスがしたい」という単純な欲望だ。そこには相手の思いやりは含まれず、単なる性への渇望だけが存在する。テストステロン値が高い10代から20代の頃が欲望のピークで、その後はなだらかに減少していく。
妻を性の消費物として見ている場合、もしかしたらまだ妻への欲望視にとらわれている人もいるかもしれない。もしくは30代以降もテストステロン値が高い男性は、妻が望んでいないにも関わらず性的欲求の矛先を妻に向け続けているかもしれない。妻を性的に素敵だと思うことが問題ではないが、妻を性欲処理玩具のように扱うことに問題がある。一方女性は、出産後は安全な子供の養育のためオキシトシンが大量分泌され、性的欲望は大きく減少する。養育に専念するための自然のプログラムだ。ここに大きな男女のギャップが生まれる。
男女間の性欲の違いに関するデータは信頼できる統計は少ないが、見つかったものをここに紹介しておく。男女ともに年齢を重ねるごとに性欲が低下するが、女性の方が減少率は高い。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3209#google_vignette
欲望の次に訪れるのがロマンスだ。「この人ともっと一緒にいたい」素直にそう感じることができ、心の中に喜びが満ち満ちている状態。恋愛ドラマやラブソングに歌われるような心理状況だ。人によって長さが違うだろうか、恋人と付き合って3年間ほどはこういった感情が続くはず。もしかしたら女性は妊娠発覚までこの感情は続き、男性の中には出産後も続く人がいるかもしれない。
そして多くの人は、この恋愛感情つまりロマンスが夫婦の愛そのものだと勘違いしている。「恋愛感情は消えてしまったから、もう夫婦として終わっている」そんな話を何度か聞いたことがある。だが、恋愛感情(ロマンス)は夫婦の愛にたどり着く前の途中駅でしかない。ロマンスがない関係性は退屈で辛く感じることもあるが、そこで途中下車せずアタッチメントという最終駅を目指すのだ。そこに夫婦の愛が存在する。
アタッチメントとは愛着のこと。お互いに慈しみ合い、大切にし合う関係のこと。欲望とロマンスはテストステロンとドーパミンが関わっているが、アタッチメントにはオキシトシンが関わっている。このオキシトシンをいかに夫婦がお互いに分泌するかが、夫婦関係改善の鍵を握る。そして、それこそが夫婦の本当の愛を構築してくれるのだ。
もう一度振り返ると、愛とは欲望、ロマンス、アタッチメントの順番に以降していき、多くの人はロマンスが愛だと勘違いしている。そして、本当の夫婦の愛がアタッチメントにあると知らず、アタッチメント構築ができないがために、愛にたどり着くことができないでいる。この一連の流れはBeforeシリーズと呼ばれる映画を見てもらえると簡単に理解できる。
この映画シリーズは「Before Sunrise」、「Before Sunset」、「Before Midnight」の3部作で構成されている。アメリカ人青年のジュリーとフランス人女性のセリーヌがウィーンで出会い、9年後パリで再開し、さらに9年後にギリシャを訪れる話だ。一作目では彼らの欲望が描かれ、二作目ではロマンスが描かれ、三作目ではアタッチメントが描かれる。それぞれの街を舞台を物語は美しく彩られる。ミニシアター系なので好き嫌いは別れるだろうが、ぼくはとてつもなくこの3部作が大好きだ。
欲望にもロマンスにもアタッチメントにも、それぞれの美しさが存在する。狂おしいほどに相手を求める欲望、心が張り裂けそうになるロマンス、小さな幸せが心に降り積もるアタッチメント。人が人を求める美しさと切なさがこれでもかというほどに描かれる。この映画を観てもらうと恋愛感情がどのように変化するか、まるで体感するように理解できるはずだ。可能ならば夫婦で映画を鑑賞し、それぞれの感想を共有し合って欲しい。意見が合わなくたっていい。自分たちの心の奥にある感情を発見し、それを言葉にする訓練になるはずだ。特に、彼らが倦怠期を迎えた3作目は仕事に家事に育児に悩む僕らにドンピシャな状況なので、きっと感情移入できると思う。
では、肝心のアタッチメントはどう築けばいいのか?そのためにはまず、アタッチメント理論を知る必要がある。
アタッチメント理論
アタッチメント(愛着)理論はイギリスの精神分析家であるジョン・ボウルビィによって提唱された。この理論は、乳幼児期の子どもとその養育者(多くの場合は母親)との間の感情的な絆の形成と、その後の人格発達に焦点を当てており、人の精神の発達を研究する発達心理学に大きな功績を残したと言われている。
簡単に言うと、乳幼児と養育者(ボウルビィの研究では主に母親)が愛情あるやりとりを通して作る絆のことをアタッチメントと呼ぶ。では、愛情あるやりとりとは何か?それは乳幼児が養育者に求める安全と保護に対して応答することだ。これは愛着のスリーサイクルモデルで説明すると分かりやすい。
下の図のように、まず子供が不安を感じ、養育者に対して泣いたり追いかけたり抱きついたりする。これが第1ステップだ。第2ステップは養育者から子供に対する応答だ。なだめたり抱きしめたり気持ちを受け止めたり、そのように乳幼児に対して安心感を与える。そして第3ステップ、子供は不安な気持ちを落ち着かせられ、探索活動(遠くへ遊びに行ったり、新しいことを始めたり)へと向かうことができるようになる。
愛着のスリーサイクルモデル
愛着理論には安全基地という概念がある。愛着が安定している子供は、探索活動を行うとき、そこに母親はいないはずなのに、まるでそばに母親がいるかのように安心感を感じて遠くへ行くことができる。なぜか?それは子供が自分の中に安心感を内在化させているからだ。子供のヘルプに親が応答し、それによって子供は安心感を感じ、自分の心の中に母親や父親の暖かな存在感を構築していく。だから一人でも遠くへ行けるのだ。怖いことがあっても大丈夫。僕にはママがいる。僕にはパパがついている。そういった愛されている実感が、小さな子供に冒険へと旅立つ勇気を与えてくれる。
有名な実験だが、アメリカの心理学者ハーロウは生まれたてのアカゲザルを使った実験で、哺乳類における安全基地の概念を証明した。実験では2種類の代理母を用意した。一つは針金だらけの母親で胸の部分に哺乳瓶がついている。もう一つには哺乳瓶はなく、ただ針金を柔らかい布で包み込んだもの。
左柄が哺乳瓶がついている針金だらけの母親、右側が哺乳瓶はないが柔らかい布に包まれた母親
中心の突起がミルクが出る部分
アカゲザルがどちらの母親を好むかという実験だったが、コザルはミルクを飲む時は針金が剥き出しの母親を選んだが、それ以外のシーンでは柔らかい布でくるまれた母親のそばにいることを好んだ。
ミルクを飲む時は針金の母を選ぶ
飲み終わるとすぐに柔らかい布で覆われた母に飛びつく
安心感に満ちた表情
驚く出来事があった際にはただの布で包まれた母の人形に抱きつきさえしたという。ただ餌をもらえるだけでは愛着は育たず、生き物は優しさに包まれる体験(抱擁などのスキンシップ)を心から求めていることがわかる事例だ。
おもちゃが目の前で動いているのに驚き、布の母から離れないコザル
この動画で実験の一部始終を見ることができる。ぜひチェックして欲しい。ただの生地で構成された母に飛びつくコザルの姿はあまりに悲しい。安心感を感じられる存在が、僕ら生き物には必要なのだ。例えそれが、抱きしめ返してくれず、優しい言葉をかけられることもない単なる布切れであっても。僕らには愛を感じられる存在が必要なのだということが、布でできた人形に抱きつくコザルを見ると痛々しいほどに伝わってくる。
これを夫婦に言い換えるならば、ただ金を稼ぐだけでは夫婦の愛は育たず、コザルにとっての温かな布のような存在が、僕ら夫婦にも必要ということなのだろう。僕はそれがお互いへのケアなのだと思っている。夫婦がお互いへのケアを行わないからこそ、婚外恋愛が起こるようになる。不貞行為を犯した人間にとってその相手は、コザルの布でできた代理母と同じ存在なのだろう。針金でできたパートナーではなく、嘘の愛で固められた優しい不倫相手を選ぶのだ。
話を親子間アタッチメントに戻そう。愛着のスリーサイクルモデルが機能していた子供は安定した愛着関係を親との間に築き、高い自己肯定感と社会適応能力を持つようになる。一方で親から抱きしめられたり、なだめられたりといった安心感を与えられずに育った子供は、対人関係や感情面に問題を抱えるようになる。感情的な親密性や他者との葛藤を避けたり、強い見捨てられ不安を抱くようになる。
安定した愛着を持つ人間は安定型、感情的な親密性を避ける人間は回避型、そして見捨てられ不安を抱く人間は不安定型と分類される。ちなみにこれはグレーゾーンが広く、安定ー回避の両方を併せ持つケースもある。このサイトでチェックできるので、ぜひ夫婦で試してみて欲しい。
ちなみに僕は安定ー回避型だ。基本的には安定しているが、元々は強い回避型だった。他者と親密性を築くのが苦手で、友人作りやグループ活動はいつも嫌だった。だけど、呉服店で働いたことで強制的に親密性構築の特訓をすることになり、徐々に抵抗は減っていき、その後は妻への自己開示を通して過去の傷は癒やされていった。両親は僕を愛してくれたと思うが、それでも僕は柔らかな布を求めていたのだと思う。
15歳の秋に付き合った彼女が僕にとっての柔らかな布だった。お互いの境遇をシェアし合い、励まし合うことで、僕らの愛着スリーサイクルモデルは静かに回り始めた。だが、おそらく当時、統合失調症を患っていたであろう彼女とは関係がうまくいかなくなり、僕のスリーサイクルモデルの歯車は完全に止まった。そして22歳の夏、彼女は亡くなった。その後、太陽のように明るい妻と出会ったことで僕の人生は大きく変わり、回避型の気質は少しづつ鳴りを潜めるようになった。だが、今でも”それ”はそこにある。これはもうどうしようもない、付き合っていくしかないものだと思う。
だが、妻への自己開示を工夫し続けることで、僕の回避型気質は間違いなく小さくなっている。これは確かな事実だ。次回のポッドキャストとニュースレターでは、回避型のパートナーとどう向き合えばいいかをじっくりお送りするが、悲観することはないと僕は思っている。僕らはデコボコなのだ。それでいいんだ。
話はずれたが、そんなわけで人は安定型、回避型、不安定型の三つの愛着の型を持っている。夫婦関係に悩む方の話を聞き続ける中で気がついたことがある。夫婦関係の改善に時間がかかるケースは、夫婦のいずれかか、もしくは両方が、健全な愛着関係を幼少期に築けていないことが背景にあるようなのだ。
親兄弟から虐待されていた。母親から安心感を感じられる愛情を与えられなかった。いつも親が厳しく優しくされた記憶がない。つまり、愛着のスリーサイクルモデルにおける応答(なだめる、抱きしめる、受け止める、安心感を与える)がまったくなかったのだ。こういった人は驚くほど多い。
アサーションやコミュニケーションの本を読み、夫婦で実行し、それだけで夫婦関係がうまく人たちは安定型なのだろう。どんなに本を読んでも、実行しようとしても、体が動かない。パートナーに優しく接することができない。何よりも自分に優しくすることができない。そんな方達は回避型か不安定型である可能性が高い。
本当に、幼少期に身につけた愛着の型は、大人になってからの恋愛関係に影響を与えるのだろうか?
HazanとShaverの研究によると、どうもそのようだ。彼らは乳幼児期の愛着型が大人の恋愛経験や関係性にどのような影響を与えているかを調査した。その結果、安定型の人は信頼と友情に基づく恋愛関係を経験する傾向があるのに対し、回避型の人は親密さへの恐怖や信頼の欠如を特徴とし、不安定型の人は他者との一体化への強い願望(見捨てられ不安)や、恋愛関係における高い感情的な波(不安定な恋愛体験)を経験する傾向があることがわかったのだ。
では、回避型や不安定型の人間は、健全なパートナーシップを結ぶことができないのだろうか?僕はそう思わらない。むしろ、自分や自分のパートナーが回避型や不安定型であることがわかることは、関係性改善へのファーストステップだ。原因が分からなければ解決方法も分からない。原因は分かったのだ。あとは解決させるだけだ。
愛着のスリーサイクルモデルにおける、「不安感の共有」と「応答(優しく受け止める)」が僕らには必要なのだ。とはいえ、幼少期に植え付けられた型は烙印のように僕らの体に刻まれている。どうやってその呪いを振り払い、僕らは素直に心を開き、愛を与えることができるのだろうか?
次回のポッドキャストとニュースレターでは、回避型の人間にどう接すれば愛着関係を築けるのかをお送りする。かつての僕のように回避型で困っている方は、是非聴いて(読んで)欲しい。
では、また次回!
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