愛着スタイルに向き合うことが、なぜ夫婦関係を改善させるのか?

感情的に距離を近づけるのが怖かったり、話し合いを避けたり、過度に依存的になったり、不安や嫉妬を感じたり。夫婦を長く続けていくとそんなことがあると思う。だけどそれは弱さではない。幼い頃の養育者との関わりの中で生まれた、あなたの愛着の癖なんだ。あなたに責任はない。
アツ@夫婦関係学ラジオ 2024.04.05
誰でも

夫婦関係に悩む人の話を聞いていると、ある共通点があることに気がつく。それは2人のうちのどちらか、もしくは両方が愛着の傷を抱えているということだ。パートナーとの距離を縮めることが怖かったり、葛藤を避けたり、依存的になりすぎてしまったり、そういった愛着の傷が二人の関係性に大きな影響を与えている。

愛着の傷を持つことにその人に責任はない。みんな人それぞれ違う。その人の世界を、パートナーの世界を理解する必要があるんだ。だけど、多くの人はこの愛着の存在について知らない。ただ相手が甘えていると認識したり、夫婦だから分かってくれるはず、そんなことまで言う必要はないと思っている。

もしくは、そこに発達障害の問題が絡んでいることもある。ASDと呼ばれる発達障害を持ってる場合、他者の気持ちに共感的になることが難しいため、パートナーの愛着の傷に対して理解を示そうとしないかもしれない。

また、自分たちが恋愛感情で繋がっているという幻想を抱いているケースもある。付き合いたての恋人ならば、相手から冷たい仕打ちをされたり、お互い理解し合おうとする努力をしなくても通じ合っているような感覚を覚えることがあるだろう。だが、恋人時代に分泌されていたドーパミンはもう出ることはない。だからオキシトシンによって繋がり合う必要がある。では、どうすれば夫婦はお互いにオキシトシンを分泌されることができるのか?

それは「愛着スタイル毎の付き合い方」に関する知識を手に入れ、実行し、継続することだ。オキシトシンが出始めれば夫婦間の葛藤に関する妥協など考える必要はなくなる。脳の仕組み自体が変わり、お互いに思いやりの気持ちを持ち合いやすくなるからだ。そしてこれこそがアタッチメントとコンパッションによって繋がった関係性そのものだ。

今回のアツの夫婦関係学ラジオはこちら。

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幼少期の虐待によるトラウマ

夫婦関係の傷を深掘りすると、意外と出てくるのが幼少期の虐待だ。肉体的もしくは精神的な虐待体験が強いトラウマ となり、愛着障害や複雑性 PTSD などの症状を呈しているケースがある。こういった場合は夫婦だけで解決することは難しいため、専門のカウンセラーに頼った方がいいだろう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/20/backdata/1-2-4-6.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/20/backdata/1-2-4-6.html

子供の数は減少し続けているのに関わらず、児童虐待件数は年々増えている。安定型愛着スタイルを持つ人間は年々減少している理由もここにあるかもしれない。

複雑性PTSDとは、幼少期の長期に渡る虐待によるトラウマ体験によって脳や人格を変えてしまうほどの心の傷を指している。繰り返し体験することがない災害などによるトラウマは単回性トラウマと呼ばれ、複雑性トラウマと区別されている。

https://tokyoco.jp/complex-ptsd/

https://tokyoco.jp/complex-ptsd/

 複雑性PTSDは、持続的な虐待やドメスティック・バイオレンスなどのトラウマ体験をきっかけとして発症し、PTSDの主要症状(フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心など)に加えて、感情の調整や対人関係に困難がある等の症状を伴います。こうした症状により日常生活や社会生活上に大きな支障をきたす精神疾患です。通常のPTSDに比べて、日常生活や社会生活の支障がより大きく、併存疾患も多いことが分かっています。
https://www.ncnp.go.jp/topics/2022/20220608p.html
https://tokyoco.jp/complex-ptsd/

https://tokyoco.jp/complex-ptsd/

複雑性PTSDの治療には、STAIR Narrative Therapy (STAIR-NT)と呼ばれる心理療法が有効だと言われている。STAIR-NTとは、トラウマやストレス関連の問題を抱える人々を支援するために設計された心理療法の一種であり、感情と人間関係の調整におけるスキルトレーニングだ。

NTは「Narrative Therapy(ナラティブセラピー)を指し、この治療法は、トラウマによって生じる感情的な困難と人間関係の問題に対処するための具体的なスキルを教えることに焦点を当てている。

ナラティブセラピーは以下の四つのプロセスに分かれている。

  • 物語の特定: セラピーの初期段階では、クライアントが自分自身や自分の人生についてどのように話しているかを特定する。これには、問題や困難をどのように語っているか、そしてそれが自己認識にどのように影響しているかを理解することが含まれる。

  • 物語の分離: クライアントは、自分のアイデンティティを形成する物語と問題を区別するようになる。このプロセスでは、「問題は人ではない」という考え方が強調される。つまり、個人は問題を所有しているわけではなく、問題が個人を定義するものでもない。

  • 代替物語の探求: クライアントとセラピストは、ネガティブな物語に挑戦し、それに代わる新しい物語を構築する。この新しい物語は、クライアントの強み、価値、希望、達成を強調するものであり、よりポジティブな自己認識と人生の見方を促進する。

  • 新しい物語の統合: クライアントは、新しく構築された物語を自分の人生に統合し始める。これにより、彼らの行動、関係、そして自己認識においてよりポジティブな変化がもたらされる。

このように、ナラティブセラピーは、クライアントが自分自身と自分の人生について語る方法を変えるで、よりポジティブな変化を生み出すことを目指している。物語を再構築することで、個人は自己受容、回復力、そして人生の目的について新たな視点を得られるようになるのだ。

「物語の語り直し」とは耳慣れない言葉かもしれないが、何度か触れているコンパッション・フォーキャスト・セラピーと似通った考え方でもある。

ナラティブセラピーはポストモダン哲学(人のアイデンティティ形成は、単一の事実を元に生まれるのではなく、個人の多様な経験や文脈によってなされるという哲学思考)に基づき、コンパッション・フォーキャスト・セラピーは進化心理学や仏教の考えを取り込んだ自他への慈悲の促進に基づいた思想であるという違いはあるが、そのどちらもが自分自身が抱いている物語を再考、再構築し、よりポジティブで自己慈悲的な視点を取り入れることを奨励する点で似通っている。

コンパッションの専門家によるワークショップをいくつか受けたが、多くの心理士の方が複雑性PTSDに対するコンパッション・フォーキャスト・セラピーの有効性を指摘している。その理由は自他への慈悲によって可能となる「物語の語り直し」にあるのだろう。

もし、愛着障害へのケアについてもっと深く知りたいならば、「愛着トラウマケアガイド」という本がおすすめだ。心理士など対人援助者向けの本だが、僕らのような一般の人間にも分かりやすく書かれており、愛着トラウマに対してどうケアをすればいいのか理解できる素晴らしい本だ。もし、あなたの夫婦間の葛藤の背景に幼少期の虐待体験があるならば、きっと役立つはず。

ただ、虐待による複雑性PTSDに素人が立ち向かうことは困難だ。ぜひトラウマ専門家の治療を受けて欲しい。

下のリンク先の放送はトラウマ治療専門家の矢野裕之さんにお話を伺ったものだ。トラウマの正体とその治療方法がわかる内容になっている。

子供が安定型アタッチメントを身につけるために重要なもの

愛着トラウマケアガイドに書かれているもの中で特に印象的だったものをいくつかあげてみよう。1つは、「子供が安定型アタッチメントを身につけるために重要なもの」としてイギリスの認証心理学者ピーター・フォギナーが提唱した考え方だ。

それは、「養育者が子供の苦悩に対して共感し、対処し、子供は養育者である自分とは別の心を持った存在として認めること」だ。

もし、夫婦がお互いの愛着の傷に向かい合うならばこの考え方は避けられない。この話はそのまま夫婦関係にも応用することができるからだ。自分のパートナーの苦悩に共感し、その苦悩を取り除くために対処し、そしてパートナーを自分とは別の心を持った存在として認め、尊重する。これができれば回避型や不安型など愛着の傷を負ったパートナーも、安定型アタッチメントへと変容させられる可能性がある。

実際、僕のまわりでも回避型愛着スタイルを持つ人間が、パートナーからのケアにより安定した愛着スタイルへと変わったケースがある。僕自身も回避型の傾向が高かったが、妻を始めとする多くの信頼できる人間への自己開示を通して、愛着スタイルを安定させることに成功した。僕の場合は東京成徳大学大学院 准教授 石村郁夫先生が行うコンパッショネイト・マインド・トレーニングも大きな役割を果たしてくれた。

石村先生には夫婦関係学ラジオにもご出演いただいた。ぜひ、こちらも聴いて欲しい。夫婦間にコンパッションをどう持ち込むかについてお話しいただいている。先生が反響を知りたいとおっしゃっているので、ぜひ質問やコメントを送って欲しい。次回ご出演時にお答えいただけるはずだ。

👇ご質問はこちらにお願いします。

パートナーを理解することは自分の視野を広げること

また愛着トラウマケアガイドにはこうも書かれている。

支援者の視点は相談者の問題ではなく、相談者の考えや感情を理解できるよう自分の視野を広げることにおかれる。

これは夫婦関係において重要な視点になる。夫婦間の葛藤に向き合う時、どうしても僕らは葛藤の原因を相手に求めることが多い。「君が心を開かないから」「君が物をはっきりと言わないから」そう相手を責めたり責められた喧嘩がいくつもあったと思う。僕にだって心当たりがある。口には出さずとも、そう思っていたこともある。

しかし、なぜ相手がそう思うのか?なぜそういった行動をとってしまうのか?

パートナーの考えや感情の背景のあるものを深く理解しようとする時、感情に反応せずパートナーの人間性を深いレベルで理解することができるはずだ。そしてその時、相手の視点を自分の視点に加えることによって、新たな視点を手に入れることができ、物事を広い範囲で俯瞰して見つめられるようになるのだ。

夫婦はお互いにとって大切な存在であるため、相手に対する期待が生まれ(期待は悪いことじゃない。ネガティブな感情に巻き込まれずに素直に伝えれば何の問題もない)、感情に反応せず相手の視点を自分に取り込むことが難しく感じることもあるだろう。

「分かってほしい」「理解してほしい」という気持ちを持つことはとても自然で当たり前のことだ。それは決して悪いことではないのだが、お互いに自分のことだけを分かってほしいと願い続け、相手を理解しようとする姿勢を見せないことは、相手の視点を取り入れることを邪魔するだろう。

パートナーの考えや感情を軽蔑するのではなく、「そういった視点もあるのか」と素直に受け入れ、自分の視点の1つとして取り込む。たとえ自分が強い賛同を感じられなかったとしても、物事に対する柔軟性を手に入れることになり、それは人間としての大きな成長につながると僕は信じている。

僕は呉服屋で働き、商社で働き、その後もいくつもの業界で働いたが、業界が変われば常識が変わり、働く人の視点も異なってくる。感情を中心に商売をする呉服屋とロジカルを中心に商売をする商社では、求められるスキルはまったく異なり、まさに新しい視点が必要とされた。

今の僕は情緒と論理のバランスを取ろうと、日々のコミュニケーションを気を配っている。それは夫婦間であったり、仕事であったり様々なシーンに応用が可能なものだ。自分の中にいくつもの視点が存在すると、その時々で目の前の相手に合わせた対応が可能になる。苦手な人間も(嫌なものは嫌だが)少しずつ対応が楽になってくる。それは自分自身が変容したのではなく、新たな物の考え方が加わったからなのだと思う。

感情的に距離が近いパートナーに対して、冷静に相手の視点を自分に取り組むことはハードかもしれないが、やってみる価値のある行為であり、何よりも夫婦関係外におけるコミュニケーション能力も向上し、人としての成長につながるはずだ。

セキュア・ボンディング

そして、「パートナーの視点を自分の中に取り込む時」に必要となる考え方がセキュア・ボンディングであると、愛着トラウマケアガイドには書かれている。本書ではセキュアボンディングについてこう説明されている。

自分や他者を信頼できず、変わることを恐れる人に対して、安心して自分の心の内を打ち明けることのできる関係を築き、変化への準備をするための技術です。
愛着トラウマケアガイド

カウンセリングと言うといきなり心理療法を行うようなイメージがあるが、セキュア・ボンディングにおける考え方はちょっと違う。1週間に1回50分×52回、合計1年間の変化の熟成期を必要とすると考えるのだ。その目的は相談者が支援者に対して安全性を感じられるようにすることである。両者の間に安全性の絆を作るために1年間も設けるのだ。その後にやっと変化を促進する心理療法を行う。

つまり、これは支援者が相談者にとっての安全基地となっていることを意味する。幼少期に養育者との間に愛着を形成することができず、心の中に安全基地が存在しない相談者にとって、支援者に心を開くことは困難な行為だ。だからこそ支援者は、まず何よりも最初に相談者の安全基地を作ることに集中するのだ。

さらに愛着トラウマケアガイドにはこう書かれている。

セキュア・ボンディングにおいて支援者は、相談者の意見を守る存在になります。相談者の威厳を守るとは、「相談者の心に敬意を払う」という姿勢。つまり「相談者の尊厳を傷つける行動は断固受け入れない」という姿勢を、相談者の前だけでなく、相談者の家族や友達、同僚などの前でも貫くのです。
愛着トラウマケアガイド(P31)

夫婦関係の改善と一体何の関連があるのかと思うかもしれないが、僕はここに大きなヒントがあると信じている。夫婦間においても、支援者と相談者のような関係は大いに成り立つからだ。もちろんあなたはパートナーのセラピストではないが(そんな意識をずっと持っていたら疲弊してしまう)、愛着の傷が原因でコミュニケーション困難を抱えているパートナーと接する時、この考え方は多いに参考になる。

そして、妻へのケアの概念を持てない男性にとっても、こういった視点を自分の中に取り込むことによって、ケアの概念がより理解しやすく、実践しやすくなるはずだ。夫婦間の葛藤、特に不倫など性問題が絡む場合、つい相手を責め立て、相手の尊厳を粉々にしてしまいがちだ。もちろん不貞行為は許されないだろう。だが、そこに至るまでの深層心理をもっと理解すべきなのだと思う。また、そういった深い傷つきの体験から夫婦が立ち直ろうとする時、パートナーの尊厳を守るために戦うその姿によって、二人の間に強い「安全性の絆(セキュア・ボンディング)」が生まれるのだ。

コンパッションフォーカスセラピーを実践するセラピストは口を揃えてこう言う。

「好奇心を持ちましょう」

コンパッションナイトマイドトレーニングを受けた際に、ケースフォーミュレーションといったものを行った。それは、まず過去の体験による影響、出来事、自分の特性、性格、家庭環境などを列挙する。そして次に、最近困っていること、悩み、自分の中で改善したいこと、不安なこと、自分の中の課題などを書く。次にそれに対してどういった行動をしているか(コーピングや安全方略と呼ばれる)、自分が取りやすい行動パターンを書き出す。そして、意図していない結果生じてしまうデメリットや不利益は何かを書き出す。

このケースフォーミュレーションを行うことで、自分の動機を知ることができる。自分が普段行っている行動パターンの背景にあるものはどんな悩みなのか、そしてその悩みはどこからやってくるのかを知ることができるのだ。

そして、その結果生まれるデメリットまで客観的に認識することができる。コンパッショネイトマインドトレーニングではさらにその先があり、思いやりを持って自分と接するとしたらどういった行動を取るのが良いと思いますかという問いが存在する。この一連のケースフォーミュレーションを行うことによって、自然と自分に対する思いやりが生まれ、どういった行動がベストなのかを自分の頭で考えられるようになる。

毎日これを行うことは難しいが、一度パートナーと行うことによってだいぶ自分たちを理解しやすくなるはずだ。相手の行動パターンは何で、その背景に何があるのかを知れるからだ。もしかたら普段パートナーに対して苛立ってしまう行動パターンもそこには存在するかもしれない。

だがその行動パターンを知り、パートナーの不安や過去の体験による影響に対して好奇心を持つことで、きっと今までよりも深い愛情を持ってパートナーに接することができるようになるはずだ。

愛着トラウマケアガイドにはこうも書かれている。

また支援者は、自らの認知の偏りには最新の注意を払いながらも、相談者の認知を偏ったものとしては捉えず、できるだけ様々な角度から物事を見ることで、相談者の考えや感情を承認できるよう努力します。つまり、支援者が客観的な視点を持っていて相談者がその視点を学ぶという関係ではなく、支援者が相談者の視点をこれまで持っていた自分の視点に加えられるようにするのです。
そして支援者は、相談者を信じ、相談者と同じ世界に跳躍する仲間になります。相談者の尊厳が他者によって侵害された時、「私の大事な人になんてことをするんだ」と怒るように、相談者と同じように世界を体験する存在でありながら、安定した個人として自らの一貫性を保ち、相談者をケアする存在となります。言い換えると、支援者は中立ではなく、相談者の絶対的な見方になります。弁護士が依頼人の利益と権利のために死力を尽くすのと同様に、支援者は相談者の心と尊厳のために死力を尽くすのです。相談者はそのような支援者との関わりを通して、自信を持ち、信頼に値する他者を信頼する方法を身につけていきます。
愛着トラウマケアガイド(P31)

「さすがにそんなことできないよ」「それはカウンセリングの話でしょ」と思う人もいるかもしれない。だけど、僕は妻に対して似たような感覚を抱いている。自分の考えを妻に押し付けるのではなく、ああそういった考え方もあるのかとその視点を自分の中に取り入れる。それは勝った負けたという表面的な話ではなく、自分の視野が広がり様々な側面から物事を捉えられるようになる、人間としての大きな成長なのだと思っている。

あなたにもきっと同じような体験があるはずだ。職場で誰かに敵対視されたり、仲間はずれにされたり、もしくは大きな課題を抱え、一人で悩み込んでしまったり。または友人との関係に疲れてしまったり、家族との葛藤を乗り越えることが難しかったり、人はいろんな課題を抱えている。その時にパートナーが自分と同じ側に立ってくれたらどんなに嬉しいか、どんなに救われることか、どんな人にもそんな体験があるはずだ。

もしなかったとしても想像してほしい。世界のすべてが敵となったような感覚に襲われた時、一人だけでも自分の味方でいてくれる人が自分のすぐそばに立っているというその事実を、どうか想像してほしい。(もう少し頑張れるかもしれない。私は一人じゃないのだから)、そんな温かな期待が胸の中に広まり、目の前のパートナーに対して信頼感と親密感が高まっていくのを感じないだろうか。

「相談者の認知を歪んでいると受け取らない」という話に関しても、夫婦関係に同じことは言えるはず。「パートナーの言ってることがちょっとおかしいんじゃないか、何か間違ってるんじゃないか、自分にとって受け入れられないような考えだ」、そう思う時もあるかもしれない。

だけどそういった時は、パートナーの認知が歪んでるとは受け取らず、いろんな角度から見て自分の視点に相談者を視点を付け加えていくのだ。その時に参考になるのは先ほどのケースフォーミュレーションだろう。パートナーの過去の体験による影響、出来事、性格、家庭環境を書き出し、パートナーが最近困っていること、悩み、改善したいこと、不安なことを書き出し、それに対してパートナーがどういった安全方略を取っているのか、取りやすい行動パターンは何なのか、そしてその結果生まれている不利益やデメリットは何なのか。

それら全て書き出すことによって、パートナーの認知が歪んでいるとは思えなくなるだろう。そういった背景があるのかと、好奇心を持って相手の心の底に降り立つことによって、パートナーの視点を自分の中に取り入れることができるようになる。そしてその視点の取り込みがパートナーからあなたに対する信頼感へとつながっていく。

僕が愛着トラウマケアガイドに書かれている文章で最も心を惹かれたものはこれだ。

”共感を超えて相談者の世界と共にある”

夫婦においてもまさに同じことが言える。

”理解と共感を超え、パートナーと同じ世界に降り立つ”

ここまで読んできて、いやさすがにそれは自分にはできないよ、疲れちゃうんじゃないかなと心配になる人もいるだろう。もちろん全てを一気にやろうと思わないでほしい。これには長い時間がかかるはずだ。一年、二年、人によっては三年かかる人もいるだろう。

だからどうか焦らず、じっくりと時間をかけて取り組んでほしい。まずはケースフォーミュレーションを夫婦間で行うのがいいだろう。自分達で行うことが難しい場合は心理士の力を借りてもいい。感情焦点化療法やコンパッション・フォーカスト・セラピーを行うセラピストなら大きな助けになってくれる。

パートナーを心理的にケアすることは確かに大変だ。だが、愛着トラウマケアガイドにはこう書かれている。

支援者の仕事は自分の感情を抑制し、操作しなければいけない「感情労働」と言われます。特に看護師の感情労働については、これまで多く議論されています(武井,2006)。しかし、相談者と同じ立場に立てている時、その支援者の素の感情は、相談者を救うものになり、支援者にとっても、疲れではなくエネルギーになります。実際に、表面的なケアを行っている看護師は精神的に疲労しやすく、認知的・感情的に相談者と十分に関わっている看護師は楽しんで相談者との時間を過ごしているとRamosらが報告しています(Carol Ramos, 1992)。皆さんも相談者を理解できるまでは疲れても、理解できるようになるにつれ疲れを感じなくなっているのではないでしょうか。支援者が活動を長く続ける意味でも、相談者を十分に理解して感情を表現することが重要です。
愛着トラウマケアガイド(P39

つまり理解するところまでは労力を要するが、その先にある共感においては楽になるはずだと著者は書いている。なぜなら真のケアとは表面的な行動を指すのではなく、相談者を救う行為であり、相談者と共に戦うエネルギーとなるからだ。

夫婦においても同じことが言える。僕自身を振り返ってもそう感じることは多い。パートナーを理解することは確かに大変だ。自分とは異なる価値観を持つ人間を理解することだからだ。

だけど、そんな考え方はおかしい、間違っている、未熟だと切り捨てるのではなく、なぜ自分のパートナーがそういった行動パターンを取ってしまうのか、それによってパートナーは何に困ってるのか、どういった不安を感じているのか、そしてそれはどこからやってくるのか、家庭環境、過去の体験、出来事、そういったことを理解することによってパートナーを救いたいと自然に思うようになるのだ。そしてそれこそが、一緒に人生を歩んでいくエネルギーになるのだと僕は感じている。

これはコンパッションの考え方にも通じている。

「他者の苦しみに気づき、取り除こうとする行為」

コンパッションのこの定義は、まさにパートナー間における愛着形成の大きなヒントになっている。

パートナーの苦しみに気づき、パートナーの苦しみを取り除こうとするとき、そこにあるのは疲弊ではなく、パートナーを救いたいという純粋なエネルギーなのだ。

もちろん自分自身が疲弊しておらず、自分が自分に対して思いやりを持っている状態が理想だ。その点においてもセルフコンパッションは重要であり、コンパッションにおける3つのフローの一つである自分から自分へのコンパッション(セルフコンパッション)は大きな支えとなる。

パートナーの苦しみを取り除きたいと願うその力は、自分にとって大きなエネルギーとなり、そのエネルギーにパートナーが気がつくことで、あなたに対する信頼感や親密感を感じられるようになるのだ。

では、パートナーを表明的にケアするのではなく、心からの理解と共感を努力するためには具体的にどうすればいいのか?

そのヒントは感情焦点化療法(エモーショナル・フォーカスト・セラピー)通称EFTにあると僕は思っている。夫婦関係学ラジオでは、EFTに関する著書「私をギュッと抱きしめて」を全ページ解説した。是非そちらを合わせて聞いてほしい。

「私をギュッと抱きしめて」:https://amzn.asia/d/emLaUwd

今まで見たきたように、夫婦関係を改善するにはお互いの愛着の癖を知り、その背景にある物語を知り、その物語をポジティブな方向に語り直し、パートナーにとっての安全基地となる必要がある。難しく感じるかもしれないが、要はお互いがお互いにとって信じ合える関係になるというシンプルなものだ。

ただ、愛着の傷がある人にとっては困難であるため、今回の放送とこの記事を参考にぜひチャレンジして欲しい。自分達だけでは難しいと感じる場合はぜひ専門家の力を借りてください。

次回以降は、EFTを夫婦が自分たちの生活の中にどのように取り組めば、理解と共感を超え、ともに生きるエネルギーとなるのかについて迫っていきたいと思っている。

次回はEFTとはなんなのか?ギュッとまとめた回をお送りする。次回のポッドキャストとニュースレターを聴いて読んでいただければEFTに関する概要をつかめるはずだ。

ただ、EFTに関しては専門家の方をゲストにお呼びし、詳しくお話を伺う機会を作る予定だ。夏の配信になるかもしれないが楽しみに待っていて欲しい。僕も今からワクワクしている。

繰り返しになるが、今週配信したポッドキャストでは、東京成徳大学大学院 准教授 石村郁夫先生をゲストにお呼びし、コンパッションについて深く解説頂いた。夫婦関係にコンパッションを応用する方法もお話し頂いているので、ぜひ聴いて欲しい。

放送を聴いて感じた疑問点やお悩み相談があれば、どしどし送ってください。石村先生が次回ご出演時に回答してくださる予定です。

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放送はこちら。

夫婦関係学ニュースレターでは、ポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」の深掘り記事を毎週金曜日にお送りしています。夫婦関係やパートナーシップにご興味がある方にとって参考になるニュースレターです。以下リンクからご登録ください。では、また来週お会いしましょう!

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