妻との関係改善に本当に必要なものとは?
妻との関係改善において、本当に必要なものとはなんだろう?
状況によって変わるが普遍的なものもあるはずだ。2,500年間続く歴史的宗教である仏教から、そのヒントを考えてみよう。
仏教における「慈悲」は「縁起(えんぎ)」と呼ばれる概念から始まる。
「縁起(えんぎ)」は仏教の基本的な教義の一つであり、すべての現象や存在が相互に依存し合って成立しているという考え方を指す。
少し難しく感じるが、簡単にいうと「どんな課題であっても原因とそれを生み出す条件があり、原因と条件を消すと課題も消滅する」ということだ。
夫婦の課題は「相手が悪い」で語られることが多い。確かにDVなど明らかな犯罪行為は一方的に悪いといえるだろう。だが、夫婦間で発生する多くの課題(セックスレス、不倫、婚外恋愛、冷えたコミュニケーション、思いやりの欠如など)は、非が相手にだけあるのではなく、そういった環境をお互いに作り出していることが背景にある。
夫婦はお互いに独立して存在せず、深く関わり合っているため、強い影響を与えあっているのだ。
チューリップの花は、その球根から咲きます。球根が原因(因)で花は結果(果)です。 しかし、球根だけでは花は咲かず、温度・土質・水分・肥料・日光・人間の細心の手入れなど、さまざまな条件(縁)が球根にはたらいて花は咲くのです。 このように、すべてのものには、必ずそれを生んだ因と縁とがあり、それを因縁生起いんねんしょうき=縁起というのです。
現実には、因と縁と果とが複雑に関係しあい影響しあって、もちつもたれつの状態をつくっています。 『阿含経あごんきょう』に「これある故ゆえにかれあり、これ起こる故ゆえにかれ起こる、これ無き故ゆえにかれ無く、これ滅する故ゆえにかれ滅す」とあります。 日常、よく「縁起が良い・悪い」という言葉を聞きます。吉凶のきざしという意味なのでしょうが、本来は、他の多くのものの力、恵み、お蔭かげを受けて、私たちは生かされているという、仏教の基本的な教えなのです。
因縁という言葉を日常で使うことがあるが、語源は仏教における原因(因)と条件(縁)からきている。「因縁深い」とは原因と条件が深くからまりあっていることを指しているのだ。
では、夫婦の葛藤における「因(原因)」と「縁(条件)」とはなんだろうか?それらを定義することで、妻との関係改善は一気に楽になる。
パートナーシップナレッジ不足による不適切なコミュニケーション
夫婦の葛藤における原因は二つに分けられる。一つはより良い夫婦関係づくりのためのナレッジ(知識)を持っていないこと。二つ目はそのナレッジ不足ゆえに不適切なコミュニケーションを取ってしまうことだ。
より良い夫婦関係つくりのためのナレッジを「パートナーシップナレッジ」と呼ぼう。パートナーシップナレッジは学校や会社では教えてもらう機会がないため、多くの人が持っていない。自分たちの結婚生活の葛藤をくぐり抜けるなかで発見していく知識となっている。
そのため、多くの人が葛藤にぶつかるまではパートナーシップナレッジを知らず、なかには知らないまま破局をむかえることもある。自分たちの関係性が良い方向に変われたかもしれないのに。
夫婦関係学ラジオやニュースレターのなかで何度も触れてきたが、次のようなものがパートナーシップナレッジだ。
恋と愛の違い
産後の女性の体と心の変化
女性の性欲の発生メカニズム
愛着障害
妻の恨みの発生理由
非主張的自己表現と攻撃的自己表現
各ステージにおける夫婦の発達課題
柔らかな気持ちの存在
コンパッションの概念
ケアという概念
幼少期のトラウマ
見てわかるようにいくつもの分野を横断している。脳神経科学、医学、進化心理学、発達心理学、家族心理学、愛着、ケア、トラウマなど。心理学のなかでもさらに細かく分類でき、コンパッションやエモーショナリー・フォーカスト・セラピーなど、最新の知見も必要とされる。そして、これらは常にアップデートしており、持っている知識を更新し続ける必要がある。
よく売れているパートナーシップ本を一冊読んだところで何も変わらないのだ。夫婦それぞれのパーソナリティは人それぞれであり、二人が織りなすケミストリーも千差万別だ。そのため二人が抱える課題は多岐にわたる。
ある人は愛着の問題、ある人は幼少期のトラウマ、ある人はパートナーの不倫がトラウマとなりパートナーに心と体を開けない。
夫婦の葛藤を引き起こす原因はかなり幅広いのだ。では、こういった原因を助長する「条件(縁)」とはなんだろうか?次のようなものがあげられる。
ともに過ごす時間の少なさ
仕事によるストレス
住環境によるストレス
経済的課題
コニュニケーション課題
産後という環境
育児という環境
働くことも、子どもを産むことも、子育てすることも、どれもすべて悪いことじゃない。ただ、そういった環境が夫婦関係を悪化させる条件にもなり得る。ナレッジ不足とこういった環境が組み合わさることで二人の間に距離が生まれてしまう。
ご相談者さんのお話を聴いていると、「ともに過ごす時間の少なさ」と「ケア不足」は密接に絡まりあっていることが多い。夫婦が一緒に過ごす時間が短いためにお互いのことを知れず、相手が求めていることがわからず、見当違いなアドバイスやケアをおこなってしまう。
パートナーシップナレッジを持っていないと、そのスピードはさらに加速する。夫婦の関係性を悪化させるものが原因と条件であることを忘れてはいけない。
このように原因と条件が重なることで、パートアーシップナレッジ不足による不適切なコミュニケーションが発生する。その結果、お互いの愛着ニーズを発掘できず、伝えられず、受け止められず、怒りという表面的な本能に流されネガティブなループにハマってしまう。
そして、自分たちの関係性はもうどうにもできないのではという絶望感に襲われるのだ。
原因と条件の消し方とは?
では、どうやって原因と条件を消せるのか?
それは「好奇心」と「寛容さ」だ。過去に受けた海外の心理士のワークのなかで、必ずスピーカーが口にする言葉がある。それが「好奇心(curiosity)」だ。彼らは必ずこの言葉を使うのだ。
自分の感情に好奇心を持ちましょう。パートナーの感情に好奇心を持ちましょう。自分や他者への思いやり(コンパッション)に好奇心を持ちましょうと。
そして、寛容さも持つようにと口にする。この二つはセットなのだ。単なる好奇心だけでは、相手へのジャッジにつながりかねない。相手が感じる柔らかな気持ちにいい悪いのジャッジをせず、この人はそう感じていたのか、その背景にはなにがあるのかな?ああ、そういうことだったのかと、寛容さを持って見つめるのだ。
不倫から関係性を再構築できた方の特徴にも、好奇心と寛容さは当てはまる。なぜ、パートナーは不倫したのか?その背景にはなにがあったのか?そこに好奇心と寛容さを持って降りていくのだ。相手を許せる日はやってこず、受けた傷が消えることもない。だが、好奇心と寛容さをかねそなえれば、恨みを手放し、傷を癒すアクションへの勇気をもらえるのだ。
自分たちに何が起こったのか、好奇心を持って見つめてみよう。思い込みにとらわれず、種の起源を著したダーウィンや昆虫学者ファーブルになったつもりで、保身や利益のためではなく、純粋な知的好奇心で自分をドライブさせるのだ。
人間が抱える葛藤の原因は大体解明されている。理論的背景がわかれば気持ちも落ち着いてくる。わからないから不安になるのだ。
だが、理論を理解しても感情が追いつかないこともある。パートナーの不倫の原因がわかっても許せない気持ちは消えない。そこで必要なものが寛容さなのだ。自分とパートナーに対して寛容さを向けるのだ。
過去の自分に優しさを向け、「あなたがこうなってしまうのも、傷ついてしまうのもしかたないよね」と受け止めるのだ。パートナーの行動に対しても「そういう行動を取ってしまうのもしかたないよね」と寛容さを持って見つめるのだ。不倫など許せない行動もあるだろう。そういった時は無理に許そうとしなくてもいい。許せる日などやってこないのだから「許す、許さない」というジャッジから降りよう。感情を過去や未来ではなく「今ここ」に向け、今ここにいる自分の感情に優しさを向けるのだ。
自分に思いやりを向け、「そんなことを感じるのも当然だ」とみずからの気持ちに寛容になれれば、セルフコンパッションにより自分のメンタルへのセルフケアができるようになる。すると、妻からの言動に対しても感情的なクッションができ、傷つきにくくなっていく。自分が自分にとっての理解者や応援者、そして親友となるのだ。
最後に少しだけ伝えたいことがある。もしあなたがどれだけ努力をしても夫婦関係を修復できなかったとする。たとえそうだとしても、その過程であなたが手に入れた好奇心と寛容さはあなたにとって何にも変えがたい貴重な財産となる。それはあなたを人として何段階も成長させてくれるのだ。こんなことを言うのは無責任かもしれないが、どっちに転んでもいいことしかないのだ。
夫婦関係修復の旅とは、二人の人間性の成長の旅であり、真の意味での思いやりを持てるようになる旅なのだ。それは仏教開祖であるガウタマ・シッダールタが人々への救いを求めて俗世にくだり、修行を重ねるなかで悟りを開いた行為に近い。
ブッダと我々のような普通の人間を同列には扱えないかもしれないが、良好な夫婦関係のおおいなるヒントが「思いやり(コンパッション・慈悲)」にあるのであれば、思いやりを説く仏教と夫婦関係は近い距離にあるのだとぼくは思っている。
ぼくらは悟りを開くなんてことはできないかもしれないが、夫婦の思いやりを追求することで近しい場所まではいけるはずだ。
最後にコンパッションフレーズを一緒に唱えて終わりにしようと思う。辛い気持ちを感じたとき、どうかこのフレーズを唱えてほしい。気持ちがスッと楽になるはずだ。
今は苦しみの時である。
この苦しみは誰しもが経験している。
自分に優しさを向けてもいいだろうか。
自分には幸せになってほしいと心から願っている。
あなたの人生が好奇心と寛容さに満ちたものでありますように。そして、幸福に満ちたものとなりますように。心から祈っている。ぼくもまた、あなたとともにある。
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